問答002 「仕事なんだから嫌なことがあって当たり前」って、本当ですか?

11 思い込み

「仕事なんだから嫌なことがあって当たり前」って、本当ですか?

思い込み発見師(研修講師)の吉田直実です。

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 これから推敲を重ねて、2026年4月~5月頃に出版できるかなと思います。読んでくれたら嬉しいです。

 さて、今回は、職場で先輩や上司からよく聞く、
 「仕事なんだから嫌なことがあって当たり前」という言葉について、「思い込み」という観点から見てみましょう。

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 「仕事なんだから嫌なことがあって当たり前」

 この言葉、職場で一度は聞いたことがあるかもしれません。自分に言い聞かせたことがある人もいるでしょう。
 たしかに仕事には責任があり、思い通りにならない場面もあります。
 しかし、このフレーズを“正論”として握りしめるのは危険だと考えています。
 なぜなら、それは、しんどさを正当化してしまう「思い込み」に他ならないからです。

思い込み:「嫌なこと=成長の証」

 「嫌なことがあるのは成長してる証拠」、「修行だから耐えろ」。
 この考え方は一見前向きですが、混ぜ物が入っています。成長のための負荷と、ただの消耗は別物です。
 例えば、未経験の仕事に挑戦して疲れるのは“成長の負荷”かもしれません。一方で、理不尽な叱責、人格否定、過剰な残業、曖昧な指示で責任だけ取らされる…これは単なる“消耗”です。
 消耗を「当たり前」で包むと、あなたの感覚が鈍ります。
 「これおかしくない?」という警報が鳴らなくなります。
 結果、耐える力ではなく、「感じない力」だけが育つことがあります。
 これは成長ではなく、「麻痺」です。 

思い込み:「嫌なら辞めれば?=自己責任」

「嫌なことがあるのは当たり前。嫌なら辞めれば?」という言い方もセットで登場しがちです。ここには、“環境”の要素がすっぽり抜け落ちています。
 同じ業務でも、上司が変われば地獄から天国に変わることがあります。逆もあります。つまり、しんどさは、能力・性格などの本人の要因だけで決まらないのです。
 仕組み、文化、権限、役割分担、評価制度、チームの関係性など、環境要因が非常に大きい。
 それなのに「嫌なことがあるのは当たり前」と言い切ると、問題が起きても改善ではなく「我慢」に向かいます。
 職場の課題が個人の根性論に変換され、結果として組織が劣化します。
 “自己責任”という言葉は、しばしば、“改善放棄” の言い換えでもあると思うのです。

思い込み:「仕事=我慢料」

 仕事は「やりたいこと」だけではない。これは確かです。
 でも、それを理由に、仕事を“我慢料をもらう場所”に固定すると、心が削れます。
 我慢を前提にすると、次のような連鎖が起きます。
 嫌なことが増える → でも、当たり前と思い込む → 当たり前だから一人で抱える → 疲れて成果が落ちる → パフォーマンスが落ちてさらに嫌なことが増える
 このループは静かに回り続けます。怖いのは、本人が「仕事ってこういうもの」と納得してしまうこと。納得した瞬間、状況を変えるエネルギーが消えます。

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そもそも「嫌なこと」には種類がある

 ここで視点を少し変えましょう。
 そもそも、仕事の“嫌”を一括りにしている人が大半ではないでしょうか。
 私が思いつく限り、嫌なことには少なくとも3種類あるのではないでしょうか。
 必要な負荷:挑戦、学習、責任、緊張
 調整で減らせる負荷:役割の曖昧さ、段取り不足、コミュニケーション不全
 あってはいけない負荷:ハラスメント、過重労働、違法行為、人格否定

 「仕事なんだから嫌なことがあって当たり前」は、この3つを全部まとめて“当然”にしてしまう雑な言葉です。特に、「あってはいけない負荷」まで正当化してしまうと危険です。
 大事なのは、嫌なことをゼロにすることではなく、まずは分類して、減らせるものを減らしていくことです。

思い込みを外すための問い

 「仕事なんだから嫌なことがあって当たり前」。
 この言葉に縛られていると感じたら、次の問いを自分に投げてみてください。
 これは「成長の負荷」? それとも「消耗」?
 この嫌さは、仕組みや段取りを変えたら減る?
 もし大切な人が同じ状況なら、「当たり前」と言う?
 会社の課題を、私の我慢で埋めていない? 私、使い捨て?

 問いを持つだけで、“当たり前”の思い込みは弱まっていきます。

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 「仕事なんだから嫌なことがあって当たり前」と言われると、「自分が弱いのかな」と飲み込んでしまいがちです。
 でも本当は、その引っかかりこそが大切なサインだと思います。心が「これは無理だよ」と教えてくれているのに、フタをしてしまうと、いつの間にか疲れが蓄積して動けなくなります。
 そこで役立つのが、自分の思い込みに気付く、認知行動療法で使うソクラテス式問答です。たとえば「今いちばん嫌なのは何?」、「それは“必要な負荷”か“理不尽”か?」、「もし後輩が同じ状況なら、あなたは何と言う?」、「この状況が少しマシになる行動は1つだけ挙げるなら?」と自分に問いかけてみます。
 感情を否定せず、事実と解釈を切り分けるだけで、打てる手が見えてきます。我慢よりも整理して動く。職場の制度を変えるなんて大それたことをしなくても、「嫌なこと」の正体がわかるだけでも、見える世界は全く違ってきます。
 
 そういう意見もあるのか、その考えはなかった、と、何か一つでも気づきがあると嬉しいです。

 思い込みに気付くだけで、自分の世界は変わります。 

 さて、あなたの思い込みは何でしょうか?

(今回の投稿では、思い込みに気付いた後の具体的な行動についてまでは言及せず、「思い込み」に気付くという観点に終始した点については、ご了承ください。) 

 ★今日のひとこと★
  嫌な職場とかけまして、好きな「もんじゃ焼き」がメニューにない、と解きます。

  そのこころは、「ろくなもんじゃねえ」。